第2話|営業部門の AI 活用 ── 提案書ドラフトと商談メモの「下書き工程」を切り出す

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営業の仕事を 3 段に分解し、提案書ドラフトと商談メモ要約だけを AI に渡す運用を紹介する。

営業の事前準備とフォロー工程に AI を入れ、商談時間を顧客接点に振り直す回。

営業の「考える時間」を AI に奪わせない

営業に AI を入れると聞くと、商談中にリアルタイムで AI が案を出す姿を想像しがちです。しかし現場で効くのは、もっと地味なところです。事前準備とフォローの「下書き工程」を、AI に任せられるかどうかです。

営業の仕事を、ざっくり 3 段に分けてみます。

  1. 1. 事前準備:相手企業の調査、提案書たたき台、想定質問の洗い出し
  2. 2. 面談:対面のやりとり、顧客反応の読み取り、その場の判断
  3. 3. フォロー:商談メモの整形、お礼メール、社内共有、次アクション設定

このうち、AI に渡してよいのは 1 と 3 だけです。2 の面談での判断は人がやります。空気の読み方や、相手の表情の機微は、AI が拾える領域ではありません。

逆に 1 と 3 は、内容の半分以上が「型に落とす」作業です。ここに AI を入れると、営業が顧客接点に使える時間が増えます。AI は営業を置き換える道具ではなく、営業から下書き仕事を引き剥がす道具です。

提案書ドラフトのプロンプト設計

提案書ドラフトを AI に出させるとき、雑な依頼の仕方をすると一般論しか返ってきません。次の 4 点を渡すと、土台になる文章が出てきます。

  • - 顧客の業界と規模、想定の役職層
  • - 過去に当社が出した近い提案書の構成(章立てだけで十分)
  • - 今回の差別化ポイント(自社が強調したい 2〜3 点)
  • - 想定される反対意見と、こちらの返し方

ここに渡してはいけないのは、顧客の固有名詞、案件名、財務データ、未公開情報です。社内で承認された範囲だけを渡し、生成された文章には必ず人の目を入れます。AI が出した文を顧客にそのまま送るのは、最終出力を AI に任せた状態であり、第1話で扱った 3 段階の最も慎重に扱う段に該当します。

商談メモ要約の運用

商談直後の 30 分は、営業がいちばん消耗している時間です。ここでメモ整形まで自分でやらせると、次の商談準備に響きます。録音またはタイピングした生メモを AI に渡し、定型のフォーマットに整形させると、社内共有までの時間が短縮されます。

整形フォーマットは部署で 1 つに揃えておきます。よく使う構成は次の 5 項目です。

  • - 顧客側参加者と当方参加者
  • - 主な論点(3 行以内)
  • - 顧客の懸念点
  • - 決まったこと/持ち帰り課題
  • - 次回アクションと期日

このフォーマットを AI に固定で渡しておくと、整形のばらつきが減り、上司が読む側でも認知負荷が下がります。

後追いメールは「下書きまで」

商談後のお礼メールも下書きを AI に任せられますが、必ず本人が一度書き換えてから送ります。AI 生成のままだと、相手企業の温度感に合わない丁寧さや、不自然なフレーズが残りやすいからです。

ここで効くのは「過去にうまくいった自分のメール」を 2 通くらい AI に学習用として渡しておくことです。自分の文体に寄せた下書きが返ってくるので、書き直す手間が大きく減ります。

営業現場での失敗例

最後に、ありがちな失敗を 3 つ挙げます。

  • - 顧客名を入れて生成し、ログが社外サーバーに残る
  • - AI 生成の提案書を、人の目を通さず顧客に送る
  • - 商談メモのフォーマットが営業ごとにバラバラで、共有しても読めない

どれも技術の問題ではなく、運用の問題です。第1話で書いた「禁止データ一覧」と、この第2話で扱うフォーマット統一は、組み合わせて初めて効きます。

次回予告

次話はカスタマーサポートを扱います。営業と似た顧客接点でも、サポートは「定型の比率」が高い分、AI に任せられる範囲と、人がやるべき線の引き方が変わってきます。

この回のまとめ:

  • - 営業の仕事を 3 段に分け、事前準備とフォローだけを AI に渡す。
  • - 提案書ドラフトには業界/構成/差別化/反対意見の 4 点を渡す。
  • - 顧客固有名詞や未公開情報は渡さない。
  • - 商談メモは部署で 1 つのフォーマットに統一する。
  • - 後追いメールは AI 下書き → 人が書き換えて送る。

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