その人は、毎回同じことをAIに説明していた
友人のマキさん(40代・会社員・二児の母)は、ChatGPTをそれなりに使いこなしている──本人はそう思っていた。
「今日の晩ごはん、何作ろうかな」と思ったらAIに聞く。「子どもの自由研究のテーマ」もAIに相談する。夫の実家へのお歳暮の文面もAIに下書きしてもらう。月に20回は使っている。世間一般から見れば、十分に「AI活用している人」だ。
ある日、マキさんが晩ごはんのメニューを聞いたときのやり取りを見せてもらった。
こんな感じだった。
「うちは4人家族で、子どもは小学3年生と年長です。夫はエビアレルギーがあります。私はできれば30分以内で作れるものがいいです。子どもたちはハンバーグとカレーが好きですが、今週はどちらも出したので別のものがいいです。冷蔵庫には鶏もも肉とキャベツと人参があります。これで晩ごはんのメニューを提案してください」
AIは的確な回答を返した。鶏もも肉とキャベツの味噌炒め、人参のきんぴら、簡単な卵スープ。悪くない提案だ。
翌日、また晩ごはんの相談をしていた。
「うちは4人家族で、子どもは小学3年生と年長です。夫はエビアレルギーがあります。できれば30分以内で作りたくて……」
ほぼ同じ前置きだった。
「それ、毎回言ってるの?」と聞いたら、マキさんは目を丸くした。
「え、だってAIは覚えてくれないでしょ? 毎回説明しないと、的外れなもの出してくるし」
その認識は、半分正しくて、半分古い。
確かに、AIは基本的に会話が終わればリセットされる。だが今のChatGPTやGeminiには、あなたの情報を「常に覚えておく」機能がすでに搭載されている。この設定を使えば、毎回同じ自己紹介をする必要はなくなる。
マキさんに設定を見せたとき、彼女が漏らした一言が印象的だった。
「これ知ってたら、半年分の手間が省けたのに」
AIに「自己紹介」を済ませる──カスタム指示とは何か
ChatGPTには「カスタム指示(Custom Instructions)」という機能がある。Geminiには「保存された情報」という似た機能がある。名称は違うが、やっていることは同じだ。
あなた自身の情報と、AIにどう振る舞ってほしいかを事前に登録しておく機能。
これを設定すると、新しい会話を始めるたびに、AIがその情報を自動的に読み込んだ状態でスタートする。毎回「うちは4人家族で……」と入力する必要がなくなる。
イメージとしては、こうだ。
行きつけのレストランに入ったとき、顔なじみのウェイターが「いつもの席でよろしいですか? お水は常温でしたよね。本日のおすすめは……」と言ってくれる。あの感覚を、AIでも再現できる。
設定画面の開き方は簡単だ。
ChatGPTの場合:
- 1. 画面左下のアイコン(自分のアカウント)をタップまたはクリック
- 2. 「ChatGPTをカスタマイズ」を選択
- 3. 2つの欄が表示される
Geminiの場合:
- 1. 設定メニューを開く
- 2. 「保存された情報」を選択
- 3. 自分の情報を記入する
たったこれだけだ。プログラミングも専門知識も一切必要ない。
何を書けばいいのか──「自分の取扱説明書」を作る
さて、設定欄を開いたはいいが、何を書けばいいのか。ここでつまずく人が多い。
結論から言えば、AIに伝えておくと毎回の入力が楽になる情報を書けばいい。堅く考える必要はない。「もし自分に専属の秘書がついたら、初日に何を伝えるか」を想像すれば、自然と出てくる。
具体的には、以下のカテゴリが実用的だ。
① 家族構成と基本情報
4人家族。夫(45歳・会社員)、長女(小3)、次男(年長)。都内のマンション在住。車なし。
これだけで、「家族向けのレシピ」と聞いたときの精度が劇的に変わる。AIは4人分の分量を出してくるし、子どもの年齢に合った提案をしてくれる。「車なしで行ける場所」という条件も自動的に加味されるようになる。
② アレルギーや食の制約
夫はエビ・カニのアレルギーあり。次男は牛乳が苦手。私は辛いものが得意ではない。
食に関する相談はAIの最頻出ユースケースの一つだ。毎回「エビ抜きで」と言う手間が省けるのは大きい。
③ 生活スタイルの前提
平日は共働きで帰宅が19時頃。晩ごはんの準備は30分以内が理想。日曜に作り置きをすることが多い。最寄りスーパーはイオンとOKストア。
AIに「今週の献立を考えて」と投げたとき、この情報があるのとないのとでは、返ってくる内容が全然違う。30分以内で作れるもの、作り置きしやすいもの、近所のスーパーで手に入る食材──すべてが自動で考慮される。
④ 好みのコミュニケーションスタイル
回答はカジュアルな口調でお願いします。箇条書きを多めに使ってください。長すぎる説明は不要です。
これは意外と重要だ。AIの回答が長すぎて読む気が失せる、という経験はないだろうか。あるいは逆に、もっと詳しく知りたいのにあっさりしすぎている、ということはないだろうか。「自分好みの回答スタイル」を指定しておけば、毎回の回答品質が安定する。
実例:マキさんのカスタム指示(ビフォー・アフター)
では、実際にマキさんがどう設定したかを見てみよう。
ChatGPTの「あなたについて教えてください」欄:
40代の女性、会社員。夫と子ども2人(小3の娘、年長の息子)の4人暮らし。都内マンション在住、車なし。夫はエビ・カニアレルギー。息子は牛乳が苦手。平日は共働きで夕食準備は30分以内が希望。日曜に作り置きをよくする。趣味は読書(ミステリーが好き)と韓国ドラマ。家計管理はマネーフォワードを使用。PTAの広報委員。
ChatGPTの「ChatGPTにどのように回答してほしいですか?」欄:
カジュアルな口調で、箇条書き多めで答えてください。長い前置きは不要です。レシピの場合は材料と手順を分けて書いてください。子どもの学校関係の文書を頼むときは、丁寧語の適切なトーンでお願いします。
設定後、マキさんが試しに打ち込んだのはたった一行だ。
「冷蔵庫に鶏もも肉とキャベツがある。今日の晩ごはん何がいい?」
以前なら、家族構成から食の制約まで毎回150文字以上のプロンプトを書いていた。それが一行になった。しかも返ってくる提案は、以前より精度が高い。エビは出てこないし、30分以内で作れるものしか提案されないし、4人分の分量で書かれている。
「もう一品ほしい」と追加で聞けば、冷蔵庫の人参やキャベツの残りを使った副菜が即座に出てくる。
マキさんは言った。「AIが急に賢くなったんじゃなくて、私が情報を渡してなかっただけだったんだ」
まさにその通りだ。AIの性能は同じ。違うのは、あなたが何を前提条件として渡しているかだけだ。
「料理以外」にも効く──カスタム指示の万能性
カスタム指示は料理の相談だけのものではない。設定した情報は、あらゆる会話に反映される。
PTAの案内文を頼むとき:
カスタム指示で「子どもの学校関係の文書は丁寧語で」と設定してあるから、「運動会の持ち物について保護者向けのお知らせを書いて」と頼むだけで、適切なトーンの文書が出てくる。学校名や子どもの学年を毎回書く必要もない。
休日のお出かけ先を聞くとき:
「今度の土曜、家族で出かけたい。屋内がいい」と聞けば、車なしで行ける範囲、幼児も小学生も楽しめる場所、という条件が自動的に反映される。以前のように「車がなくて、5歳と8歳の子どもがいて……」と入力する必要はない。
本のおすすめを聞くとき:
「次に読む本のおすすめを教えて」だけで、ミステリー好きという前提を踏まえた提案が出てくる。
要するに、カスタム指示は一度設定すれば、すべてのジャンルの会話で効く。これが、検索エンジンとAIの決定的な違いだ。Googleは毎回ゼロから検索しなければならないが、AIはあなたのことを「知っている」状態で会話を始められる。
よくある失敗:「書きすぎる」と逆効果
ここで一つ注意がある。カスタム指示に情報を詰め込みすぎると、逆効果になることがある。
ある人が、自分の職歴、資格、趣味の詳細、家族全員の健康状態、政治的立場、好きな芸能人まで、2000文字にわたって書き込んだ。すると、AIの回答が妙にぎこちなくなった。「健康に配慮して」「ご家族のアレルギーを考慮し」「あなたの資格を活かして」と、過剰に気を回した回答ばかり返ってくるようになった。
カスタム指示は、多ければいいものではない。
コツは「日常的に聞くことに関連する情報」に絞ることだ。
年に一度しか聞かないような特殊な情報は、そのときにだけ伝えれば十分。普段の会話で何度も繰り返し伝えている情報──それこそがカスタム指示に書くべき内容だ。
目安としては、200〜400文字程度がちょうどいい。名刺サイズの自己紹介だと思えばいい。初対面の人に「自分はこういう人です」と簡潔に伝えるのと同じ感覚だ。
カスタム指示の「型」──迷ったらこれを埋めるだけ
「何を書けばいいかわからない」という人のために、テンプレートを用意した。以下の項目を、自分に当てはまるものだけ埋めていけばいい。
【あなたについて教えてください(自分の情報)】
`` 家族構成:(例:夫婦+子ども2人、一人暮らし、高齢の母と同居) 年代・職業:(例:30代・事務職、50代・自営業) 住居と移動手段:(例:都内マンション・車なし、地方在住・車あり) 食の制約:(例:夫が甲殻類アレルギー、ベジタリアン、特になし) 生活リズム:(例:平日は帰宅19時、週末は午前中フリー) 趣味・関心:(例:読書、ランニング、韓国ドラマ) よく相談する内容:(例:料理、子どもの学校行事、旅行計画) ``
【AIにどう回答してほしいですか(AIの振る舞い)】
`` 口調:(例:カジュアル、です・ます調、フランク) 回答の長さ:(例:箇条書き多めで簡潔に、詳しく丁寧に) 特記事項:(例:レシピは材料と手順を分けて、文書は丁寧語で) ``
全部埋める必要はない。自分に関係ある項目だけでいい。5分もあれば設定は終わる。
「覚えてくれるAI」と「毎回リセットのAI」の使い分け
もう一つ、知っておくと便利な機能がある。ChatGPTの「メモリ」機能だ。
カスタム指示は「最初から設定しておく情報」だが、メモリは「会話の中でAIが学習していく情報」だ。たとえば、会話中に「最近引っ越して、今は横浜に住んでいます」と言えば、AIがそれを記憶し、次回以降の会話に反映する。
メモリ機能が有効になっていれば、使い込むほどAIがあなたのことを理解してくれるようになる。行きつけの店のマスターが、通うたびにあなたの好みを覚えていくようなものだ。
ただし、注意点が一つある。個人情報の管理だ。
AIにどこまで情報を渡すかは、自分で線引きする必要がある。住所の番地、マイナンバー、銀行口座、パスワード──こうした機密情報は、カスタム指示にもメモリにも入れるべきではない。この点については、このシリーズの第10回で詳しく扱う。
ここでは「カスタム指示に書いていいのは、友人に話せるレベルの情報」と覚えておけば十分だ。家族構成、食の好み、趣味、おおまかな居住エリア──このあたりは安心して書ける。
カスタム指示は「育てる」もの
最後に、大事なことを一つ。
カスタム指示は、一度設定したら終わりではない。使いながら育てていくものだ。
最初は家族構成と食のアレルギーだけ書いておいて、AIを使っていく中で「あ、これも毎回伝えてるな」と気づいたら追加する。逆に、「この情報、全然使ってないな」と思ったら削る。
季節が変わればよく聞くことも変わる。子どもが進級すれば情報も更新が必要だ。引っ越せば住所も変わる。カスタム指示は、あなたの「今の生活」を反映した生き物のようなものだと思ってほしい。
冒頭のマキさんは、設定後1週間でこう言っていた。
「もう設定なしの頃には戻れない。毎回の入力量が3分の1になった。しかもAIの回答が、前よりずっと『わかってる感』がある」
マキさんがやったことは、たった5分の設定だ。プログラミングもしていないし、有料プランにも入っていない。ただ「自分のことを、AIに教えた」だけだ。
今日やること:5分でできる設定チャレンジ
この記事を読んで「へぇ」と思った人は多いと思う。でも、思っただけでは何も変わらない。
今すぐ、スマホかパソコンでChatGPT(またはGemini)を開いて、カスタム指示の欄に以下の3行だけ書いてみてほしい。
- 1. 家族構成(または「一人暮らし」)
- 2. 食の好みや制約(なければ「特になし」でOK)
- 3. 回答スタイルの希望(「箇条書きで簡潔に」など)
3行だ。1分で書ける。
そして、いつも聞いている質問を試しに投げてみてほしい。前置きの説明を省いて、いきなり本題だけを聞く。返ってくる回答の「わかってる感」に、きっと驚くはずだ。
次回は、この「カスタマイズされたAI」を使って、単発の質問で終わらせず、複数のタスクを数珠つなぎで処理させる「連続プロンプト」のテクニックを紹介する。「レシピを教えて」で終わらず、「献立→買い物リスト→段取り」を一気通貫で作らせる方法だ。
次回予告:第2回「レシピ検索で終わらせない。『献立→買い物リスト→段取り』の連続プロンプト」