書くことで気持ちを見つける──大げさでない日記の始め方

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書くことで自分の気持ちに気づきやすくなる仕組みと、続けやすい日記の始め方を扱う第7回。

日記を大げさに考えず、小さく書くことで気持ちを見つける方法を扱う第7回です。

日記と聞くだけで、少し身構えてしまう

「日記を書くといいですよ」と言われると、それだけで重く感じる人がいます。毎日書かなきゃいけない気がする。文章力が要る気がする。何か立派なことを書かなきゃいけない気がする。そうした思い込みが先に来て、始める前に面倒になってしまう。

でも、ここで言う「書く」は、そういうものではありません。毎日でなくていい。上手くなくていい。長くなくていい。人に見せるものでもありません。ただ、自分の中にある感覚を、文字にして外に出してみる。それだけのことです。

このシリーズではここまで、気持ちに気づくこと、言葉にすること、不快な感情との距離、忙しい日のチェックイン、他者の影響からの守り方、もやもやとの付き合い方を扱ってきました。今回は、これらすべてを支える道具として「書くこと」を紹介します。

書くことで気持ちを見つける──大げさでない日記の始め方

書くと気持ちが見えてくる仕組み

頭の中だけで考えていると、同じことがぐるぐると回り続けることがあります。でも、それを紙やスマートフォンに書き出すと、考えがひとつの場所に固定されます。書いた瞬間に、それは「頭の中の漠然としたもの」から「目に見える文字」に変わるのです。

この変換が、気持ちの気づきにとても役立ちます。「もやもやする」と思っていたものを書いてみると、「仕事の締め切りが気になっている」と「友人に言われたことが引っかかっている」の二つが混ざっていたと分かる。書くことで、粒が見えるようになるのです。

これは、第2回で扱った「気分を言葉にする」の延長です。言葉にするのが口の中での作業だとすると、書くのはそれを目の前に置く作業です。目の前に置くと、距離が取りやすくなります。胸のざわつきを『胸がざわざわする』と書くだけで、ざわつきが少し落ち着くことがあるのは、この仕組みによるものです。

いちばん簡単な始め方は「一行だけ書く」こと

日記を始めるのにいちばんハードルが低い方法は、一行だけ書くことです。一行で十分です。「今日は曇りみたいな気分」「肩がずっと重かった」「昼に食べたラーメンがおいしかった」。これでもう日記です。

一行だけなら、時間は30秒もかかりません。寝る前に、スマートフォンのメモアプリに一行書くだけでかまいません。ノートに書くのが好きならノートでもいい。ツールは何でもよくて、大切なのは「書くことのハードルを限界まで下げる」ことです。

書く内容も、気持ちに限らなくていいのです。今日食べたもの、会った人、見た景色。書いているうちに、「あ、あの場面で少し嬉しかったかもしれない」と気づくことがある。気持ちへの気づきは、気持ちについて書こうとしなくても、ふと現れるものです。

書くことで気持ちを見つける──大げさでない日記の始め方

書き方に正解はない──自分に合う形を探す

日記の書き方は、ひとつではありません。ここでは、試しやすいいくつかの形を紹介しますが、どれが合うかは人によって違います。

ひとつは、箇条書きスタイルです。「・肩が重い」「・午後に少し楽になった」「・夕方また疲れた」。文章にせず、短い項目で並べるだけ。考える負担が少なくて続けやすい方法です。

もうひとつは、問いかけスタイルです。第4回で紹介した問いかけをそのまま使って、「今日の体の状態は?→肩がこわばっている」「何か引っかかったことは?→会議での発言」と、問いと答えのセットで書く。フォーマットがあると書きやすい人に向いています。

自由に書くのが好きな人は、思い浮かぶままに書くスタイルでもかまいません。大事なのは、書く行為に向き合うことであって、書いた内容の質ではありません。下手でも、短くても、支離滅裂でも、書いた時点でその練習は成功しています。

書いたものを見返すと、パターンが見える

日記の力が本当に発揮されるのは、書いたあとに見返したときです。一日分では何も見えませんが、一週間、二週間と続くと、自分のパターンが浮かんでくることがあります。

「月曜日はいつも調子が悪い」「この人と会った日は気持ちが重い」「散歩した日は少し楽」。こうしたパターンは、頭の中だけで考えていてもなかなか気づけません。文字として並んでいるから、初めて見える。

ただし、見返すのも義務にしないことが大切です。書いたものを毎日読み返す必要はありません。週末にちらっと見るくらいで十分。もっと言えば、見返さなくても構いません。書くこと自体がすでに効果を持っています。見返しは、おまけのようなものです。

書くことで気持ちを見つける──大げさでない日記の始め方

続かなくてもいい。また始めればいい

日記が続かなかったという経験がある人は、少なくないはずです。三日坊主で終わった。途中で面倒になった。書くことがなくなった。そうした経験があると、また始めることへの抵抗感が生まれます。

でも、続かなかったこと自体は失敗ではありません。三日間書いたなら、三日分の気づきがあったということです。それは立派な収穫です。やめたら、またやりたくなったときに始めればいい。間が空いても問題ありません。

日記を続けることが目的ではありません。目的は、自分の気持ちに気づくことです。日記はその道具のひとつにすぎません。道具が合わなければ別の方法でいい。でも、書くことが合う人にとっては、これほど手軽で強力な方法はなかなかありません。試してみる価値は十分にあります。

デジタルとアナログ、どちらで書くか

書く道具として、スマートフォンのメモアプリを使うか、紙のノートを使うか。これは好みの問題ですが、それぞれに特徴があります。

デジタルの良さは、いつでもどこでも手元にあることです。電車の中でも、待ち時間でも、布団の中でも書けます。検索もできるので、あとから見返すときに便利です。ただし、スマートフォンを開くと他のアプリの通知が目に入ったり、つい別のことを始めてしまうリスクがあります。

アナログの良さは、書くこと以外の刺激が入らないことです。ノートとペンだけの環境は、それ自体が一種の静けさを持っています。手を動かして書くという身体的な動作が、思考の整理を助けることもあります。ただし、持ち歩きの手間や、あとから検索できない不便さはあります。

どちらが正解ということはありません。大事なのは、「これなら続けられそう」と感じる方を選ぶことです。両方使い分ける人もいます。外出先ではスマートフォン、家ではノートという使い方もあります。道具にこだわりすぎて書くこと自体が始まらないのがいちばんもったいないので、今すぐ手元にあるもので始めてみるのが一番です。

書いたものを誰かに見せる必要はない

日記を書くとき、「誰かに読まれたらどうしよう」という不安が頭をよぎることがあります。その不安から、書く内容を過剰に取り繕ってしまうことがあります。でも、ここでの書くことは、自分だけのためのものです。

誰にも見せない前提で書くと、書ける内容が変わります。仕事への不満、人間関係のもやもや、自分の弱さ、恥ずかしい感情。こうしたものは、人に見せるための文章では書けません。でも、自分だけが読むメモなら、正直に書いても何の問題もありません。

正直に書けるということは、それだけ自分の感情に深くアクセスできるということです。体裁を整えた言葉よりも、乱暴でも正直な言葉のほうが、気持ちの核心に近いことがあります。「あの人ムカつく」と書いてもいい。「もう全部嫌だ」と書いてもいい。その正直さが、自分を見つめるための大事な出発点です。

もし不安なら、書いた後に消してもかまいません。書くことの効果は、書いた瞬間に生まれます。記録を残すことは副次的な効果であって、必須ではないのです。書いて消す、を繰り返しても、練習としては十分に機能します。

書くことで気持ちを見つける──大げさでない日記の始め方

書くことが気持ちの「整理」ではなく「発見」になるとき

書くことの効果には二つの段階があります。最初は「整理」です。頭の中のもやもやを書き出すことで、何が気になっているのか、何を感じているのかが整理される。これだけでも大きな効果があります。

でも、書くことを続けていると、もうひとつの段階が現れます。それは「発見」です。書いているうちに、自分でも思ってもいなかったことが出てくる。「あの人のことが気になっていたんだ」「実は楽しかったんだ」「あれは悲しいことだったんだ」。書く前には気づいていなかった感情が、ペンを動かしているうちに浮かんでくることがあるのです。

この「発見」は、頭の中だけで考えていてはなかなか起こりません。書くという行為が、思考を線形に進ませるからです。頭の中では同時に複数のことを考えられますが、書くときは一つずつ言葉を選んでいく必要があります。この一つずつの選択の中で、ふだん見落としていた感覚が表面に出てくるのです。

だから、書くときは「何を書くか」をあまり決めすぎないほうがよいことがあります。テーマを決めて書くのも悪くありませんが、たまには何も決めずに、頭に浮かんだことをそのまま書いてみる。思いがけない発見は、そういう自由な書き方の中から生まれることが多いのです。

日記に書くことで予想外の発見があった場面

ある方は、一週間だけ試しに日記を書いてみたそうです。書いた内容は本当に些細なことばかり──「ランチのカレーが辛すぎた」「帰りの電車で席に座れた」「上司に褒められたけどピンとこなかった」。

ところが週末に見返すと、意外なパターンが浮かび上がりました。「褒められたのにピンとこない」という感覚が、実は何度も出てきていたのです。それをきっかけに「自分は他者からの承認より、自分自身で納得できたかどうかのほうが大事なんだ」と気づいたそうです。

日記の効果は、書いた直後よりも、しばらく経ってから読み返したときに現れることが多いです。自分では気づかなかった繰り返しのテーマや、感情の波のパターンが文字として残っているからです。大げさなことを書く必要はまったくありません。「今日は疲れた」の一行でも、一週間分たまれば、そこに自分だけの物語が浮かんできます。

日記を続けるための具体的なヒント

「何を書けばいいか分からない」がいちばんの壁だという方には、テンプレートを用意するのが効果的です。たとえば毎日「今日の気分を一言で / 体調はどうだったか / 明日の自分に一言」の三項目だけ埋めるようにします。

書く場所はノートでもスマホのメモアプリでも、自分がいちばん手に取りやすいものを選んでください。どんなに短くても、書いた日に印をつけておくと、続いている実感が得られます。三日坊主でも構いません。三日分のデータがあれば、それだけでちょっとした発見がきっとあります。

もうひとつのコツは、書く時間を「楽しみになっていること」の直前に置くこと。たとえばお気に入りのドラマを見る前の五分間を日記タイムにする。すると、書くこと自体が「楽しみへの助走」になり、自然と手が動くようになります。

書く習慣がもたらす長期的な恩恵

日記を半年、一年と続けた人に共通して聞かれるのが「過去の自分と対話できる」という感覚です。三ヶ月前の自分が何に悩み、何を感じていたかを読み返すと、今の自分がどれだけ変わったか──あるいは変わっていないか──が手に取るように分かります。

これは自己成長の記録としても、自分のパターンを客観視する材料としても貴重です。書いたものは、未来の自分へのメッセージでもあるのです。完璧な文章を残す必要はありません。そのときの自分が、そのときの言葉で書いたものにこそ、いちばんの価値があります。

書くことに抵抗がある方は、まず一行メモから始めてみてください。「今日はなんだか穏やかだった」──たったこれだけでも構いません。重要なのは、書く行為そのものが「自分の気持ちを確認する時間」として機能することです。量や質ではなく、向き合う時間をつくったという事実に意味があります。

今回のまとめ

  • 書くことで、頭の中の漠然とした感覚が目に見える粒になり、気づきやすくなります。
  • いちばん簡単な始め方は、一行だけ書くことです。毎日でなくて構いません。
  • 書き方に正解はなく、箇条書き、問いかけ形式、自由記述など、自分に合う形を探せばよいです。
  • 蓄積を見返すと自分のパターンが見えますが、見返しも義務にしないほうが続きます。
  • 続かなくても失敗ではありません。やめても、また始めればそれでいいのです。

次回は最終回です。自分の気持ちに気づく習慣を、生活のどこに置くと続きやすいかについて考えます。シリーズ全体を振り返りながら、日常に溶け込む形を探っていきます。

シリーズ

自分の気持ちに気づく練習

第7回 / 全8本

第1回 / 無料記事

自分の気持ちがよく分からないと感じたとき、最初に試してみたいこと

自分が何を感じているのか分からないとき、最初に何をすればよいのかを扱う第1回です。

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第2回 / 無料記事

なんとなく調子が悪い日に、気分の正体を言葉にしてみる練習

漠然とした不調に言葉を当ててみることで、気持ちとの距離が変わる体験を扱う第2回です。

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第3回 / 無料記事

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書くことで気持ちを見つける──大げさでない日記の始め方

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第8回 / 無料記事

自分の気持ちに気づく習慣を、生活のどこに置くと続きやすいか

気づく習慣を生活に溶け込ませるための実践的な考え方を扱うシリーズ最終回です。

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