なぜ落ち込んだ日に「やけ食い」してしまうのか──食べることと感情調整の関係

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落ち込んだ日に甘いものやスナック菓子に手が伸びる──その行為は「だらしなさ」ではなく、感情調整の代替手段。感情摂食の心理学と、食べる→罪悪感→また食べるスパイラルの構造を解き明かす第4回。

嫌なことがあった日、気がつくとスナック菓子の袋が空になっている。その行為の裏には「感情を食べ物で調整する」という、人間にとってごく自然な──しかし少し厄介な──心の仕組みがある。

空になったスナック菓子の袋

嫌なことがあった日の夜。帰宅して、着替えもせずにソファに座る。テレビをつける。画面は見ていない。冷蔵庫を開ける。何を食べたいのか、はっきりしない。でも何かを口に入れたい。棚からスナック菓子の袋を出す。一枚、二枚。テレビの音をBGMにして手を動かし続ける。気がつくと、袋が空になっている。──食べた量に見合うだけの空腹があったわけではない。何が食べたかったのかと聞かれても答えられない。ただ、「食べている時間」のあいだだけ、胸のあたりのざわざわが少しだけ遠のいていた。

この体験に心当たりがあるなら、あなたは「感情摂食(emotional eating)」を経験したことがある。感情摂食とは、空腹ではなくネガティブな感情──悲しみ、怒り、不安、退屈、孤独感──を和らげるために食べる行動のことです。第1回で見たストレス摂食と重なる部分がありますが、感情摂食はストレスに限らず、あらゆるネガティブ感情が引き金になり得る点で、より広い概念です。

感情摂食は「意志が弱い人の悪い習慣」ではありません。それは、感情を調整するために脳が選んだ、数ある方法のうちの一つです。その仕組みを知ることが、この回の目的です。

感情調整としての「食べる」──プロセスモデルの視点

感情摂食を理解するために、まず「感情調整」という概念を整理しましょう。

スタンフォード大学のジェームズ・グロスが提唱した感情調整のプロセスモデル(1998年)は、人が不快な感情をどのように扱うかを五つの段階に分類しています。状況の選択(不快な場面を避ける)、状況の修正(場面を変える)、注意の配置(別のことに注意を向ける)、認知的変容(出来事の解釈を変える)、反応の調整(感情反応そのものを変える)。日常で使われる感情調整の方法は多岐にわたります──友人に話を聞いてもらう、散歩をする、音楽を聴く、日記を書く、深呼吸をする。

食べることは、主に二つの段階に作用します。一つは「注意の配置」──食べている最中、注意が食品の味や食感に向かい、ネガティブな思考の反芻(ぐるぐる考え続けること)が一時的に中断される。もう一つは「反応の調整」──第1回で見たように、甘い食品や脂肪分の多い食品は報酬系を活性化し、ドーパミンや内因性オピオイドの放出を通じて不快感そのものを化学的に低減する

つまり、感情摂食は「気をそらす」と「化学的に気分を変える」の二重構造で機能しています。友人に話を聞いてもらうよりも手軽で、即効性がある。深夜でも、一人でも、冷蔵庫さえあれば実行できる。──このアクセスの容易さと即効性が、感情摂食を感情調整の「first choice(第一選択肢)」にしやすい理由です。

「食べると楽になる」は本当か──研究が示すこと

感情摂食には実際に気分改善効果があるのか。第1回でコンフォートフードの気分改善効果が限定的であるというワグナーらの研究を紹介しました。しかし、感情摂食を対象とした別の研究群は、やや異なるニュアンスを示しています。

オランダのマーストリヒト大学のヤンセンらの研究グループは、感情摂食者と非感情摂食者を区別したうえで実験を行いました。ネガティブ気分を誘発した後に甘い食品を提供すると、感情摂食傾向の高い人は気分が有意に改善し、感情摂食傾向の低い人では同様の効果は見られませんでした。つまり、「食べると楽になる」という体験は、すべての人に等しく起こるのではなく、感情摂食という対処パターンを学習してきた人に特に効果が現れるということです。

これは条件づけの観点から理解できます。第3回で見たように、特定の食品とポジティブな感情が繰り返し対になることで条件づけが成立します。同じように、「ネガティブ感情→食べる→少し楽になる」というシーケンスが繰り返されると、食べること自体が感情調整の「道具」として条件づけられる。この条件づけが強いほど、ネガティブ感情のたびに食べ物に手が伸びやすくなる。

ただし、この「効果」には時間スケールの問題があります。食べている最中と食べた直後──数分から数十分──は確かに気分が改善する。しかし、その後に何が起きるかが重要です。

罪悪感のスパイラル──what-the-hell効果ふたたび

感情摂食の最も厄介な側面は、食べたあとに生じる罪悪感です。

「また食べてしまった」「こんなに食べるつもりじゃなかった」「なんで自分はこうなのか」──第1回で触れた慢性ストレスと食行動のスパイラルが、ここでも顔を出します。ネガティブ感情→食べる→一時的に楽になる→しかし罪悪感が生じる→罪悪感はネガティブ感情である→またネガティブ感情→また食べたくなる──。この自己強化ループが、感情摂食を「たまにやること」から「パターン化した行動」に変えていきます。

ジャネット・ポリヴィとC・ピーター・ハーマンが1985年に命名したwhat-the-hell効果(「もうどうでもいい」効果)は、このスパイラルの加速装置です。姉妹シリーズ「毎日のなんでだろう」第3回でも紹介したこの現象は、もともとダイエット研究の文脈で発見されました。食事制限をしている人が「計画外」の食品を食べてしまった後、「もう今日はいいや」と自制を完全に放棄し、通常よりも大量に食べてしまう。──感情摂食にも同じパターンが適用されます。「またやってしまった」→「もうどうでもいい」→さらに食べる。

ポリヴィとハーマンの制限理論(restraint theory)は、このパターンの構造を明確にしています。食行動に「してはいけない」という認知的な境界線(ダイエットルール、「夜は食べない」ルール、など)を引いている人ほど、その境界線を越えた瞬間に自制の堤防が決壊しやすい。「少し越えた」も「大きく越えた」も同じ「失敗」としてカテゴリ化されるため、「少し食べてしまったのだから、もうたくさん食べても同じ」という認知に陥る。──これは「all-or-nothing思考(白黒思考)」の食行動版です。

アレキシサイミア──「気持ちがわからない」と食べてしまう

感情摂食に関連するもう一つの重要な概念が、アレキシサイミア(alexithymia)──「失感情症」とも訳される──です。

アレキシサイミアとは、自分の感情を識別したり、言語化したりすることが困難な特性を指します。「今、自分が怒っているのか、悲しいのか、不安なのかがはっきりしない」「体調が悪いのか、感情的に落ち込んでいるのかの区別がつきにくい」──そのような体験です。これは精神疾患の診断名ではなく、誰もがある程度持っている連続的な特性です。

ブラッシらの研究グループは、アレキシサイミア特性の高さと感情摂食傾向のあいだに有意な正の相関があることを報告しています(2009年、《Journal of Psychosomatic Research》)。自分の感情を識別できない→何が不快なのかわからない→「とりあえず食べる」ことで漠然とした不快感に対処しようとする──このメカニズムが仮説として提唱されています。

ここで重要な示唆が生まれます。感情摂食の「入り口」の一つは、感情を認識する能力の不足かもしれないということです。「感情を言葉にする」という行為は、それ自体が感情調整の手段であることが知られています。UCLA大学のマシュー・リーバーマンの研究(2007年)は、感情にラベルをつける(「私は今、悲しいのだ」と言語化する)行為が、扁桃体の活動を低減させ、感情反応を和らげることを示しました。これは「affect labeling(感情ラベリング)」と呼ばれ、感情調整の基礎的な手段として近年注目されています。

つまり、「私は今こういう気持ちなのだ」と言語化できれば、その不快感はそれだけで少し弱まる。感情を言葉にする回路が活性化すれば、食べ物に頼る回路の出番が減る可能性がある。──これは「やけ食いをやめましょう」という行動指示ではなく、「感情に名前をつけるという別の回路を持っておくと、選択肢が一つ増える」というレベルの話です。

「退屈」という見過ごされた感情

感情摂食の引き金として見過ごされがちなのが、退屈(boredom)です。悲しみや不安ほど劇的ではないため、研究でも長らく注目されてきませんでした。しかし近年、退屈と食行動の関連が多くの研究で確認されています。

セントラル・クイーンズランド大学のモインザデらの研究(2019年)は、退屈感の高さがスナック菓子の摂取量の増加と関連していることを報告しました。退屈なとき、何かを口に入れたくなる──その衝動は、エネルギー不足のシグナルではなく、「何か刺激が欲しい」という脳の要請です。

退屈は、実は非常にアンプレザント(不快)な感情です。退屈の心理学的定義は、「現在の活動に対する注意の維持が困難で、覚醒状態が目標水準に達していないと感じている状態」(イーストウッドら、2012年)。要するに、「脳が刺激を求めているのに、それが得られていない」状態です。食べることは──特に味の変化や食感のバリエーションがある食品は──この「刺激の空白」を手軽に埋めてくれます。

思い返してみてください。退屈なときに手が伸びるのは、たいていスナック菓子──ポテトチップス、チョコレート、グミ、ナッツ──のような「何度も手を動かして口に入れる」タイプの食品です。一回の大きな食事ではなく、反復的に食べる行為。これは、反復動作そのものが一種の刺激として機能していることを示唆しています。味だけでなく、「手を動かし、口に運び、噛む」というリズムの反復が退屈な脳に刺激を供給するのです。

テレビを見ながらスナック菓子を食べ続けてしまうのは、テレビ番組がそれほど面白くないとき──つまり退屈に近い覚醒状態にあるとき──に特に起きやすいことが複数の研究で示されています。番組に集中しているときは手が止まるが、CMに入ると手が動き始める。──脳が刺激を求めて、食べ物という最も手近な源泉に向かうのです。

感情摂食と「夜」──なぜ夜間に起きやすいのか

感情摂食が起きやすい時間帯にも特徴があります。多くの人が経験するように、感情に駆動された食行動は夜間に集中する傾向があります。

これには複数の要因が絡み合っています。第一に、意志力の枯渇仮説。バウマイスターらの「自我枯渇(ego depletion)」理論(1998年)は、自制や意思決定を行うたびに心理的リソースが消耗し、一日の終わりには自制力が低下するという仮説を提唱しました(この理論の効果量は近年の追試で議論がありますが、「一日の終わりに自制が難しくなる」という日常的な実感は多くの調査で支持されています)。仕事中に感情を抑え、人付き合いで気を遣い、さまざまな判断を下し続けた──その蓄積が、夜になると自制のリソースを低下させる。

第二に、コルチゾールの日内変動。コルチゾールは通常、起床直後にピークを迎え、夜間にかけて低下します。第1回で見たように、コルチゾールはストレス対処のリソースでもある。夜間にコルチゾールが低下した状態では、ストレスへの対処力が相対的に下がり、感情的な衝動に抵抗しにくくなる可能性があります。

第三に、孤独の時間帯。夜は多くの人にとって一人の時間です。第5回で詳しく見るように、社会的つながりは感情調整の重要な資源です。夜、一人で部屋にいる──この状況は、日中に押さえ込んでいたネガティブ感情が浮上しやすく、かつ他の感情調整手段(友人と話す、外で散歩する)にアクセスしにくい。結果、冷蔵庫という「いつでもアクセス可能な感情調整装置」に手が伸びる。しかもここで厄介なのは、孤独感そのものが「社会的痛み(social pain)」として脳の身体的痛みの処理領域(前帯状皮質の背側部)を活性化しうることです。アイゼンバーガーらの研究(2003年、《Science》)は、社会的排除が身体的痛みと同様の神経活動を引き起こすことを示しました。夜の孤独が単なる「寂しさ」ではなく脳レベルで「痛み」として処理されるのであれば、甘い食品が内因性オピオイドを放出して「鎮痛」する──第1回で見たメカニズム──のは、痛み止めとしての合理的な自己投薬に近い。

第四に、反芻の活性化。姉妹シリーズ「毎日のなんでだろう」第5回で扱ったように、夜はデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)が活性化しやすい時間帯です。一日の出来事を振り返り、反芻が始まる。反芻がネガティブ感情を増幅し、そのネガティブ感情が食べたい衝動を生む──。重要なのは、反芻は「同じ思考を何度もループさせる」という認知活動であり、それ自体が不快感を強化する性質を持つことです。ノーレン‐ホークセマの反芻研究(1991年)が示したとおり、反芻は問題を解決するのではなく、ネガティブ感情の持続時間と強度を増大させる。夜の反芻によって増幅されたネガティブ感情は、冒頭で見た感情摂食の引き金──「漠然とした不快感を食べ物で和らげたい」──として直接的に機能します。

そしてこれら四つの要因は独立に作用するのではなく、互いを増幅する連鎖として夜間に同時に作動します。認知資源が枯渇した状態(第一要因)では、反芻を意志の力で止めることが難しくなり(第四要因の増悪)、コルチゾールが低下した状態(第二要因)では感情的衝動への抵抗力が弱まり、孤独な環境(第三要因)は代替的な感情調整手段を奪う。──四つの要因が同じ時間帯に重なることが、夜を感情摂食の「パーフェクト・ストーム(最悪の条件の重なり)」にしているのです。

感情摂食と「自己批判」の不毛な循環

感情摂食に関して最も伝えたいことを、最後に書きます。

感情摂食のスパイラルを悪化させる最大の要因は、食べてしまったあとの自己批判です。「なんで自分はこんなにだめなんだろう」「意志が弱い」「自己管理ができない」──この自己批判が新たなネガティブ感情を生み、それがまた食べる引き金になる。

テキサス大学のクリスティン・ネフのセルフ・コンパッション(self-compassion)研究は、この悪循環の別の出口を示唆しています。セルフ・コンパッションとは、「自分の苦しみに対して、友人に向けるのと同じ思いやりを向ける」態度のことです。ネフの研究(2003年)以降、セルフ・コンパッションが高い人は、失敗後の自己批判的反芻が少なく、感情的な回復が早いことが繰り返し報告されています。

アダムスとリアリーの研究(2007年、《Journal of Social and Clinical Psychology》)は、より直接的に食行動との関連を調べました。ダイエット中の女性に「計画外」の食品(ドーナツ)を食べてもらった後、セルフ・コンパッションの介入を行った群は、何も介入しなかった群と比べて、その後のスナック摂取量が有意に少なかった。自己批判が減ると、what-the-hell効果が弱まるのです。

この知見が示していることは、感情摂食への対処は「食べるのをやめる力」を鍛えることではなく、食べてしまった後の自分への接し方を変えることかもしれない──ということです。食べた→「まあ、そういうこともある。今日は辛かったから」→自己批判のループに入らない→次のネガティブ感情で食べる確率が下がる──。このルートは、「意志の力」ではなく「態度の質」に依存しています。

やけ食いは、脳がネガティブ感情に対処しようとした結果です。その行為を責めることは、助けを求めた手を叩くようなものです。まず必要なのは、「今、自分はどんな気持ちなのか」に気づくこと。次に、食べてしまった自分を責めないこと。この二つの小さな変化──感情のラベリングとセルフ・コンパッション──が、スパイラルの歯車に差し込める、最小のくさびです。

次回(第5回)は、「なぜ誰かと一緒に食べると美味しく感じるのか」。一人で食べるカップ麺と、友人と食べるカップ麺はなぜ味が違うのか──「共食」の心理学から見ていきます。

なぜ落ち込んだ日に「やけ食い」してしまうのか──食べることと感情調整の関係

今回のまとめ

  • 感情摂食とは、空腹ではなくネガティブ感情を和らげるために食べる行動。「注意の配置」(気をそらす)と「反応の調整」(報酬系の化学的効果)の二重構造で機能する
  • 感情摂食の気分改善効果は、感情摂食パターンを学習してきた人に特に強い──条件づけにより「食べること=感情調整の道具」が強化されている
  • 感情摂食のスパイラル:ネガティブ感情→食べる→罪悪感→またネガティブ感情。what-the-hell効果(「もうどうでもいい」効果)がスパイラルを加速する
  • アレキシサイミア(感情の識別・言語化困難)が高いと感情摂食に向かいやすい。感情のラベリング(「私は今こう感じている」と言語化すること)は扁桃体の活動を低減させる
  • 退屈は見過ごされがちな感情摂食の引き金。「脳が刺激を求めている」状態で、食べる反復動作が刺激の空白を埋める
  • スパイラルを悪化させる最大の要因は「食べてしまった後の自己批判」。セルフ・コンパッションが高いと、what-the-hell効果が弱まり、感情摂食の連鎖が断ち切られやすくなる

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